その他

いかるぎ薬局日記その他

23.05.15

薬の話アラカルト 第2回『くすりとリスク』

薬の話アラカルト(第2回)

 

2023年5月8日(月)

今年度の第2回目は前回の続きで『くすりとリスク』の話でした。

前回は、薬そのものによるリスク(副作用)の話でしたが、今回は薬を扱う人によるリスク(過誤)についてのお話です。

今回の担当は、いかるぎ薬局 金本薬剤師です。

 

下図をご覧ください。かつて交通死亡事故は年間1万人以上を記録していたことがありましたが、シートベルト、エアバッグ、衝突安全機能の充実とともに確実に減ってきました。ところが医療事故による死亡者数は、すべて公表されるわけではないので推計の域を出ませんが、交通事故による死者数に迫る人が毎年亡くなっています。たとえ重大事故に至らなくともヒヤリとした、ハッとした事例の報告は年間101万件(2021年度)を超えています。

 

薬に関する過誤は非常に多く、薬を扱うヒ人が間違いを起こしやすい理由として、1.薬の名称が類似している 2.同じ薬に複数の規格がある 3.薬(製剤)の色や形が類似している などが挙げられます。

 

名称が類似しているために間違えやすい薬品には次のようなものがあります。

高血圧の患者さんに処方されるべきアルマール(高血圧症・狭心症・不整脈治療薬)と間違えてアマリール(血糖降下薬)が処方されて患者さんが低血糖になって死亡したり植物人間になってしまった事故がありました。また、流産しそうな妊婦さんにウテメリン(子宮運動抑制剤)を投与するつもりだったのがメテナリン(子宮収縮剤)を投与して流産させてしまった事故もかつて起こりました。

 

事故が起こるたびに名称を変更したり、キーボードからの処方入力時に間違えないような対策などがとられたりしてきました。しかし、人はどうしても自分が読みたいように文字を読んでしまうクセがあるようです。

 

薬の規格が多い代表例としてインスリン製剤があります。

製剤の色や形が類似しているために薬剤師が間違いに気づかずに重大事故を起こした例としてマグミット錠(塩類下剤)とウブレチド錠(コリンエステラーゼ阻害薬)の取り違えがあります。右のように包装材料に入っていれば区別がつきやすいのですが、一包化するために錠剤を取り出してしまうと一見しただけでは区別がつきにくくなってしまいます。しかし、たとえ区別がつきにくくても錠剤の刻印を確認したりして間違えることがないようにするのも薬剤師の仕事ですから、重大事故を起こしたことに対する言い訳はできません。内服薬を一包化する際の前後で処方通りの正しい薬かどうかを確認することを薬剤師は絶対に怠ってはなりません。

 

残念ながら医療従事者の知識不足によるエラーも起きています。

注射薬のカリウム製剤は、急速に静脈内注射すると心臓が停止します。そんな医療事故が何件も起こった過去があります。そこで、事故が起こらないようにするために工夫した製剤を製薬メーカーは開発しました。塩化カリウムの入ったシリンジには決して静脈内注射できない輸液ボトル接続専用のプラスチックの針がついています。

ところが事故は次のようにして起こりました。

“上級医から口頭で「患者の補液(ソルデム3A)に、KCL10mL追加」と指示を受けた看護師が、KCL注20mEqキット(プレフィルドシリンジ型製剤)に専用針を付けず、注射器で10mLを吸い取って研修医に渡した。同製剤の投与が初めての研修医は「静注、いいですか」と指示元の上級医に確認したところ、「やっておいて」と回答された。このため研修医は、静脈ライン側管に注射器を接続して注入を始めた。”

間違いが起こらないようにするためにどんな工夫をしても知識不足の人は想定できないような行動をとるものだということがよく分かる事例です。

 

医療過誤を起こさないための基本は次のようであり、医療従事者は肝に銘じています。

第1番目の「正しい患者」は、患者さんを間違えないようにするということです。

これには、患者さんの協力が是非とも必要です。万が一、他人の薬が自分に投与されることがないように、名前を確認された時にはフルネームで応答しましょう。同姓同名が多い人の場合は、生年月日も確認する必要があります。できれば、どんな薬が投与されるのかも確認しましょう。医療従事者に「お任せ」にせず、正しい治療が受けられるように医療に参加してください。

 

ポイント!

誤ちは人の常(人は誰でも間違いを犯す)です。医療従事者も同じ人です。医療過誤を起こさないように医療従事者は日々努力しています。どうか、患者さんも自分自身に施される医療行為に関心を持って正しい治療が行われるようにナビゲーター役として医療に参加してください。