初心忘るべからず

私の医療・介護物語

25.06.05

初心忘るべからず

《私の医療・介護物語–佐藤伸彦》 第十話

 

 

皆さんはどんな想いを持って今の仕事に就きましたか。
私は、中学生の時からの愛読書であった山本周五郎の作品世界に随分影響されていると思いますが、人間という哀しい生きものを知りたくて医科に進学しました。

今もその気持ちに大きな変わりはなくその答えを探しての日々が続いています。最近は、これってそもそも答えがない問いなのかもしれない、と思うようになりました。

 

「初心忘るべからず」という言葉が好きです。

この言葉は、室町時代の能楽師である世阿弥が著した『花鏡(かきょう)』という書物に由来しています。

四字熟語では初心勿忘(しょしんわするるなかれ)とも書きます。

 

しかし、決して最初に決めたことを最後まで貫き通せということではないと思っています。

「初心変えるべからず」ではないのです。私たちは日々成長していきます。その中で目標が変わることはいくらでもあります。

大事なことは、物事を始めたときの純粋な気持ちや謙虚な姿勢、一生懸命さを大切にして決して忘れてはならないということではないでしょうか。

今一度、自分に問いかけてみてください。

どんな想いで今の仕事をしているのだろう。

どんな想いで何を目指そうと決めたのだろう。

問いかけるということは、意識していないもう一人の自分に気づくことです。

 

 

あなたの職場は「理念」とか「ミッション」とかがホームページの最初に書いてあったり、職場の目立つところに貼ってはいないでしょうか。

組織には存在意義→使命→目指す未来像→行動指針・価値観がしっかり明示されていることが必要だと言われています。

英語ではそれぞれパーパス、ミッション、ビジョン、バリューと言います。

企業の「初心忘るべからず」に当たるものかと思います。

 

ここで「初心」との関係を考えてみると、「初心」は個人や組織の原動力であり、それがパーパスに昇華され、ミッションやビジョン、バリューに展開されていくのでしょう。

そして過程がとても重要になるのだと思います。

 

例えば、個人の「社会貢献したい」という初心が組織のパーパス「持続可能な社会の実現」となり、ミッション「年間10万世帯に太陽光パネル設置」、ビジョン「2030年までに再生可能エネルギー100%達成」、バリュー「環境尊重・イノベーション推進」として具体化されていくようなイメージです。
組織だけでなく、私たちも初心という「種」を大事に育てることで、いつかは自分の人生の存在理由、生きている意味、存在意義に育っていくのです。そして自分の目指す未来像がみえ、使命や価値観に展開していくのだと思います。

もう一度、初心に帰って、自分というものを見つめ直してみましょう。

あなたがやりたいと思った仕事を今、していますか。

何か決まりきった自分が生まれてからずっとあるのではありません。

私は私として生まれるのではなく、私になっていく存在なのです。

初心忘るべからず。
シルバー新報10号5月16日号

(終わり)